ラマンチャの繋ぎ写真
差出人 : 南部辰雄 <landscape@n.email.ne.jp>
宛先 : Dear my friends
送信日時 : 2000年 5月 14日 日曜日 8:05 AM
件名 : ラマンチャの繋ぎ写真

本格的にスペインに入った。
高速をぶっ飛ばし、バレンシアさえ通り抜けて
大きな街のないエリアの途上、
小さな町の国道沿い
カフェの2階のオステルに泊まっている。
変な話だが、この宿の風情は
まるでロバートフランクの「アメリカ人」に出てきそうなところだ。
昨日から、旅程のたてなおしをするべく地図を眺めていたのだが、
今朝 高速のサービスエリアのカフェでやっと決心がついた。
バルセロ−ナは飛ばす、アンダルシアもパス。
どちらも前に訪ねたことがあるから。
そして何よりも時間がないから・・・
では何処へ?
・・・・「さあいこう! 何処へ行こう?」と言うフレーズ
誰でしたっけ? 谷川俊太郎? 
大江健三郎の小説の中に引用されていたような気がします・・・

ごめんなさい横道へそれてしまった。
僕は何をしにスペインへ来たんだっけ?
パノラマカメラはなんのために持ってきたんだ?
石井晴男君が、10数年前に見せてくれた写真
それはラマンチャの平原に広々と点在する風車
彼は広角レンズを持ち合わせておらず、
仕方なく標準レンズで一つ一つの風車を撮り、
繋ぎ合わせて見せてくれた。
それを見た僕は
10何年か前のスペイン旅行を思い立ったのだった。
しかしその旅行で、ラ・マンチャを訪れることはなかった。
理由は忘れた。
多分スペインについて調べるうちに
ガウディの建築を訪ねることにより多くの興味を抱き、
旅程にラ・マンチャを入れる余裕がなかったのだと思う。
確かに前のスペイン旅行では、
グラナダでお金を盗られ
帰国便の出るバルセローナへ急ぎたかったという理由があったにせよ、
バルセロ−ナに1週間滞在し
十分にガウディの建築を見て廻った。
この旅で何か一つだけ選ばなければならないとすると
風車の立ち並ぶ風景、
観光化が著しいとも
風車が並んでいる村はスペイン中で二つしか残ってないとも
聞いてはいる。
たとえ、風車のまわりに観光バスが並んでいるのが現実だったとしても
僕はそれを見ておくことを選ぼうと思う。
ダリというスペイン料理レストランのペドロさんの故郷
サラマンカも諦めよう、
マドリッドに19日までには入っておかないと・・・
レンタカーを返す余裕も必要だ、
空港には返せないと言う話だったし。

高速道路を走っていると、
それは淡々としたドライブなので
いろんなことを考えてしまう。
日本の高速をドライブしていても、
思うことはいっしょでもおかしくないのだが
なぜか、世界とか歴史とかを思ってしまう。
この遠く離れた土地に種類は違っても木が生えている。
草原?畑?に広葉樹が点在する風景は
名神高速の養老の東あたりと何が違うのか?
そして今走っているこの国は
15世紀ごろ?には世界を制覇する勢いのあった国
今は、ワインとオリーブと他に何があったっけ?
芸術家は多く輩出しているなあ。
空の色、空気の感じはカリフォルニアみたいで・・・
そうだ、カリフォルニアは米西戦争でスペインが失った土地だった。
そんなことが次から次へと頭をよぎっていく。

ゆかりのナビゲーションに腹を立てそうになりながら、
しかしあのスローなペースは僕にないもの
それに今までどれだけ救われたことか!
イラつくのも僕ならば、
子供のような笑顔に和ませられるのも僕。
この旅は彼女との関係をすこし変えるかもしれない。
ゆかりの良いところを
イラつきながらも再発見できそうな気がしている。
僕の言う事も当たっていると思うけれど、
たとえば「ナビをするときには指示代名詞を使わず
目標に対しての方角を言って欲しい」とか
「早め早めに指示して欲しい」とか
「質問にたいしては考える前に、まず返事をして欲しい」とか
結構小うるさいことなんだけど、
ちゃんと、そうしようと努力してくれているのが解る。
そのあたり、コンピュータを使い始めて
人間の頭が動いている時間について理解が出来るようになってきた。
へんな話だ。
コンピュータだって
何かコマンドを処理しているときに
新しいコマンドを指示するとフリーズしやすいように、
人間の頭もそうで、
なおかつその処理スピードには個体差がある。
CPUのクロック差のように。
人によっては、マルチタスクに対応していたりもするが・・・
コンピュータを使ってみてそれに気がつくなんて
変な話だ。
ゆかりも大変な旦那を持ったものだと同情するよ!
彼女はもう眠っているが、
僕がキーボードに向かっている時、
明日の行き先を地図で確かめていた。
今日走りながら、
地図上で現在地を確認するのに結構苦労していたから・・・
横からは僕の絶え間ないコマンドが入るし。

旅は人の意識を覚醒させる。
つまり、居住地での日常生活は人の意識を麻痺させる。
それを日常性と言うのであるなら、
人は旅を続けるべきか?
いや、旅は人生のようなモノ 人生は旅のようなモノ?
僕にはわからない。

食い物について
バレンシアでは町に入って
ぜひ本場のパエジャを食べたいと思ったのですが
いいホテルが発見できず、
再び高速に乗ってしまい食べずじまいでした。
しかし生ハムについて言えば
本郷にあるスペイン料理屋のダリはかなりのものだと思います。
オーナーシェフがその舌にかなった物を
故郷のサラマンカ郊外のハム屋さんから取り寄せているのですから、
それってスペイン在住の日本人料理人が
自分の故郷の××の鰹節を取り寄せているようなもの、
パリで食べた寿司(貴船という寿司屋)が
これまでの人生で食べた寿司のうち3番目ぐらいに
美味しかったようなものかもしれないと思います。

スペインの何処かから・・・
南部辰雄
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シンガポール、チャンギ空港から

そんなゆかりが撮った1枚!